児童自立支援施設の学校教育導入状況 2024年10月現在 |
児童自立支援施設の学校教育導入状況については、2005年の各施設アンケート調査(当時淡海学園 教頭 金田)をベースにして、2022年岩田智和論文P33(仙渓学園)を参考に、さらに各施設及び本校のホームページで確認してまとめた。
全国児童自立支援施設協議会の調査結果は参考にしておらず、資料不十分の点をご容赦願いたいと存じます。 |
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児童自立支援施設への学校教育導入については、1951年頃、当時の児童福祉法第48条中の「準ずる教育」(当時は教護院)の是非をめぐり、当時の厚生省内藤誠夫氏と萩山実務学校長島田正蔵氏および、きぬ川学院長石原登氏と淡海学園長小嶋直太郎氏の論争 が始まった。(2021 竹原幸太 東京都立大学) 特に小嶋氏は、地元県教育委員会や市教育委員会(当時淡海学園は大津市にあった)に出向いて教員派遣の要望を出した。こうした小嶋氏の動きに賛同していくつかの施設が同様の要望を出し始めた。淡海学園は現在の土山町に移転に時間がかかり、また土山町に要望を出し直す必要から取り組みが遅れた。 まず福岡県が検討を始め、1952年に分校を導入することが決まった。しかし、施設職員と分校の教頭・教員の間で指導上のトラブルが多く発生したという報告があり、施設職員は伝統的な教護院の教育が損なわれるのではないかと危惧した。そこで次に学校教育導入を果たした茨城学園(1965年)や淡海学園(1968年)は、派遣教員方式をとり学園職員(当時は教護)と教員が共同で学科指導に当たることにした。 淡海学園では学校教育導入に当たっては土山中学校・大野小学校の施設内特殊学級(情緒障害)とし設置し、小学校教員1名、中学校教員2名を派遣してもらった。授業は教員と教護が分担で担当したが、教員は人数が少ないので臨時免許を申請しなければならなかった。また施設職員には教員免許を持っているものもいたが、ほとんどは無免許で伝統的な学科指導であった。しかも教員も授業以外に学園の作業や行事や部活動に参加することが義務付けられた。年度途中に児童の数が増加してくると、土山町教育委員会から講師を派遣してもらい学級編成や担当教科が変更された。また当時はこれまでの学園の方針にならい、中学校は学年別学級編成でなく能力別学級編成であった。 淡海学園の場合の特殊時事情であるが、導入年の前年に小嶋園長が入院し、導入の最後の詰めの段階で土山町主導になったため、特に学校経費を獲得することができずすべて県負担とされた。学校経費は地方交付税交付金で市町村に補填されているため本来は設置者である市町村が負担するものである(教員給与は県負担)。一時期改良されたものの今日再び同様の状態となっている。 その後、1971年〜1973年兵庫県・神戸市・宮城県が教員派遣を実現する。これら3施設については学級の形式は不明である。 ところが1984年から行われた会計検査院検査で、派遣教員方式は施設教育と学校教育での国費の二重取りの可能性があるという指摘を受けた。また文部省からも派遣教員方式は学校設置基準(普通教室・特別教室・体育館等の学校設備)や学習指導要領の教育課程を満たしていないとの指摘を受けた。(岩田 2022) そこで派遣教員方式を取り入れていた施設は分校化・普通学級化や施設の改善に取り組み始めた。しかしながら伝統的な教護院の指導方式は残したいという声もあり、折衷方式の「分教室」(法律用語にない)という独自の方式が用いられた施設もあった。これは教員は分校なみで教頭も派遣され、教護も学科指導員として関われる余地を残した方式である。しかし、正式な分校としなかったために人事上の曖昧さが残り、本校との間で教員の取り合いが生じたり都道府県教委の引継ぎが途切れて「分教室」の意味が理解されないままの人事が行われるなどの問題を残しつつ現在に至っている。 1985年に文部省は教護院において分校等を設けることにより学校教育を実施できること、児童生徒を施設がある市町村立小中学校の在籍児童生徒とすることを正式に認め通達した。 1998年に児童福祉法が改正され教護院の名称が児童自立支援施設に変わると共に、施設長に就学義務が課せられた。同時に厚生省や文部省から早期に学校教育を導入する旨の通達が出されたが期限は明記されなかった。このことを契機として未導入の都道府県に導入検討委員会が設置され、すでに導入されている施設への問い合わせや見学もさかんに行われるようになった。 2009年の児童自立支援施設機関紙「非行問題215号」では、このような情勢に応えて学校教育導入における様々な課題をすでに導入している施設に執筆を依頼して特集している。また、児童自立支援施設内の分校・分教室協議会(通称分分会議)でも文部科学省や大学教授を来賓に招き、導入検討中の都道府県担当者も参加し情報交換を行ってきた。(分分会議は現在開催されていない) 2024年現在、学校教育対象57施設中55施設が導入済みとなっている。 小嶋直太郎氏がライフワークとして取り組んだ施設児童の教育権の保障が今日ほぼ完遂の運びとなった。 文責 元淡海学園内布引分教室教頭 金田眞宏
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