「教護院にある児童の教育を受ける権利」に関する意見書(抜粋)
平成2年3月
日本弁護士連合会
第1はじめに
1.昭和61年3月1日、元滋賀県立淡海学園長、小嶋直太郎氏より日本弁護士連合会人権擁護委員会に対し、次の内容の人権救済申立がなされた。
2.申立の概要
(1)児童があやまちをおかして教護院に措置されると、その教育は、学齢中の者は学校教育法がら外され、教護院ではこれを受けて不良性を除くことを目的として小学校・中学校に準ずる教科の指導を行うという児童福祉法第48条の現体制は、児童の人格を無視し、教育を受ける権利を保障しておらず児童に計り知れない不平等、不利益を与えている。
(2)即ち、教育は人格の完成をめざし、心身ともに健康な国民の育成を期して行われるべきもの(教育基本法第1条)であって、青少年期に不良性を除くことを目的とした限られた教育(児童福祉施設最低基準第101条)を行うのは適切ではなく、また根本において児童の人格を無視するものであるから、理念を改めなければならない。
(3)児童が教護院に措置されると、就学の猶予又は免除の措置がとられる(学校教育法第23条)これを受ける教護院長には児童を就学させる義務が課せられていない。また、教科の指導を行うことも義務づけられていない。(児童福祉法第48条)
教護院は学校ではない。(学校教育法第1条)教護院で小・中学校に準ずる教科の指導を行っていても、それは学校教育法に基づくものでないから、児童は義務教育を受けているとは言えない。
このように、根本的な法制度上教護院にある児童の教育を受ける権利は保障されておらず、児童の教育権は侵害されている。
(4)子女を就学させる義務の猶予又は免除を受けるのは保護者であるが、教護児童にはその能力においてそれを受ける何等の理由となるものはない。これは人権の侵害である。またこれについても、前項の就学義務と同じように、教護児童は他の収容施設児童と平等に扱われていない。
今や就学の猶予又は免除の措置は過去のものとなりつつあるにかかわらず、ひとり教護児童のみが旧態のままであることは許されない。
(5)教護院の教育は、その目的からして、また運営の面からして、いきおい限定されたものとなり、従って能力を十分に発揮させるに至らず、学力も伸び悩みがちとなる。
その結果、高校進学が極めて困難となり(出身学校の内申で一層困難となる)、また中学校卒業で就職するとき職種が限られるなど、場合によっては生涯の進路に関わる大きな不利益を受けている。これはまた児童にとって強い差別感を抱かせて、非行からの立ち直りを悪くさせる大きな原因となっている。強力な教育充実の方途が講じられなければならない。