教護院における学校教育導入に関する要望書    
                                  
平成6年
 厚生省児童家庭局長 殿          
全国教護院協議会 会長 叶原 土筆 
 
 教護院における「公教育導入」に関して、全国教護院協議会は、平成3年3月26日に「教護院に公教育を導入することについての要望」で児童福祉法第48条の改正を、また、平成4年6月3日には「公教育導入に関する要望書」で調査研究に基づいて学校教育導入に関しての具体的な要望をしてきたところです。
 しかし、その後の教護院内の論議を踏まえ、学校教育導入に関する内容について再整理をし、全校教護院の意思統一を再度図るため、第二次「公教育導入検討専門委員会」を設置して検討を行ってきました。
 今回の要望の主旨は、第一に児童福祉法第48条を早急に改正して学校教育の導入を促進させること。第二に学校教育導入は全校教護院が全て分校又は分教室を設置して行うこと。第三に分校又は分教室制の特例措置に関する要望事項について具体的に進めること。第四に具体化のための関係機関への要請についてであります。
 以上4点は、学校教育を導入する上で是非実現しなければならないものであると考えます。したがって、下記の通り要望しますので、厚生省の格段のご尽力を要請します。
 
 
1.児童福祉法第48条の改正について
  教護院入所児童・生徒が児童福祉法第48条第2項以下の適用を受けることによって、結果として学校教育法第23条の児童・生徒(就学義務の猶予又は免除)となり、他の児童・生徒と異なる取扱いとして学校教育の対象外とされている現実は、憲法、教育基本法等に照らして問題があると考える。
  したがって、この問題を早急に解決するため、児童福祉法第48条を改正して他の児童・生徒と法的に同等の取扱いをする必要がある。そのため、児童福祉法第48条を次の通り改正されたい。
  (改正内容) 第48条第1項に教護院を挿入し、第2項以下を削除する。
 
2.分校又は分教室の設置について
  児童・生徒の学校教育は、教護院内に分校又は分教室を設置して保障されたい。
 
3.分校又は分教室制の特例設置に関する要望事項について
(1)教護院と分校又は分教室の組織上の関係について
   教護院に設置する分校又は分教室においては、教員と教護とが共に業務に携われる措置を講じられたい。
 
   教護院は生活指導、学科指導、職業指導、クラブ指導等を教育の中核に据えて、一体的に業務を進めている。分校又は分教室を設置して学科指導部門を教育委員会の管轄で運営するとしても、組織の中で各部門が別々に携わっていたのでは指導の効果は上がらない。実際の運営は、あくまでも教護院内の一組織として緊密な協調体制のもとになされる必要がある。
   何故ならば、教護院に入所する児童・生徒は学力の遅れと生活指導面の問題を抱えており、教科の指導はもちろん生活指導も同時進行的に行わなくてはならないからである。そのためには、教員と教護が組織的に一体となって業務を円滑に運営しなくてはならない。
   具体的なあり方については、各知事(市長)部局と教育委員会との間で十分な協議を行う必要がある。
 
(2)学級編制について
   教護院に設置する分校又は分教室の学級編制の標準は、児童・生徒の指導の困難度から「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」の第3法第1項の「児童又は生徒の数が著しく少ないかその他特別な事情がある場合」を適用し、第2項で定めている学級編制の基準(2の学年の児童・生徒で編制する学級)「小学校16人(第1学年の児童を含む学級にあっては8人)、中学校8人」を上限として編制されたい。
 
   教護院は、反社会的な問題を持つ児童・生徒のみならず、非社会的な傾向のある情緒障害児や軽度の精神薄弱児、登校拒否児なども入所している。入所児童・生徒は、情緒が不安定で、学力は平均2〜4年の遅れのある学力地帯児又は学力不振児が多く基礎学力が身に付いていない。そこで教護院の学科指導では、学力差や能力差が大きいことをふまえ、より細かい個別指導が必要である。
   したがって、個別指導を成立させるためには、教護院における一学級の児童・生徒数規模は標準法第3条の「特別の事情ある場合」等を適用した編制が是非とも必要である。
 
(3)教員の配置数について
   教員の配置数については、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」の規定に基づくこととするが、その基準となる児童・生徒数については、文部省の児童・生徒数調べの時期によるのでなく、各教護院の年度当初の児童定員(暫定定員)に基づいて配置されたい。又、最小規模教護院については、小学校1学級、中学校3学級の開設に見合う配置をされたい。
 
   教護院の児童・生徒の入所は、学年、男女を問わずに不定期に随時入所する関係から、児童・生徒数は一定しないため、教員配置の基準となる児童・生徒数は各教護院の年度当初の定員(暫定定員)に基づいて行うことが実態に見合った方法である。また、具体的な配置の確定に当たっては、各教護院の実情を考慮した配置が望まれる。
 
(4)教育課程について
   現在、教護院は、児童・生徒のさまざまな実態に合わせて、生活指導、学科指導、職業指導、クラブ指導を柱として一日の生活日課を構成して運営している。その中でも、生活指導と職業指導は教護院運営の中核である。
   したがって、教育課程の編制には、教護院の指導の根幹である生活指導や職業指導等を充分が生かされなければならない。そのためには、一般小・中学校と全く同じ教育課程とはなし難く、分校又は分教室の教育課程を編制する場合には、教護職員も参画しての編制体制が是非とも必要である。 
   そこで、教育課程を計画する際は、学校教育法施行規則第26条の「履修困難な教科の学習」の規定を適用し、教護院教育の特徴を生かして各教科や特別活動、授業時数等、次の点を考慮して編制をされたい。
 
 @ 各教科の指導は、基礎学力の伸長に重点を置き、個に応じた効果的な指導ができるように教科内容や教材の精選を行うこと。
 A 生活指導は教護院における重要な指導のひとつとして、教育活動全体を通じて行うものとする。学校生活の時間帯においては文化的な創造活動や体育活動、レクリエーションなどのプログラムを設定することや各教科・道徳及び特別活動においても、それぞれの特質に応じて常に生活指導が適切に行える体制となるよう工夫されること。
 B 特別活動のうち、各教護院の職業指導の中における作業活動は、教育活動の重要な指導の柱であるので、特別活動の中に包括して位置づけること。
   例えば学校行事のひとつとして「勤労生産・奉仕的行事」があるが、学習指導要領は「勤労の貴さや生産の喜びを体得するとともに、社会奉仕の精神を涵養する体験が得られるような活動を行うこと」と示し、行事内容として、「飼育栽培活動、校内の美化活動や除草活動」等も取り上げている。教護院の作業活動はこうした内容を含むものである。
   また、クラブ活動についても、教護院の教育活動の上で重きをなす領域のひとつであるので、教育活動の一分野として位置づけを明確にすること。
 C 標準授業時間数と一単位時間については、学校教育法施行規則第24条の2(小学校)及び第54条(中学校)で定められているが、学校や児童・生徒の実態に即して適切に定めることになっているので、授業時数や一単位時間を決める場合には、教護院運営全体の教育活動との関わりと児童・生徒の実態や特性を配慮し、過重負担とならない時間設定が必要であること。
   以上の点を踏まえて生活指導、職業指導、クラブ活動の位置づけと授業時数等については、教護院全体の活動の枠組みの中で計画され、教護院の教育力を生かした「ゆとりある教育課程」として編成されることが是非とも必要である。
 
(5)教護職員の授業等への参加について
  教護院入所児童・生徒は生活指導が切り離せない関係上、教員免許を取得している教護職員に授業や特別活動への参加が図れるよう考慮されたい。
 
  児童・生徒の実態から見て教護職員も授業や学習指導等に関わることが必要である。児童・生徒の多くは、情緒的に安定するまでの期間を要する。また、寮生活から離れた学校生活等の場面で問題行動を起こしやすいので、授業中はもちろん、施設生活全般にわたり行動観察が極めて大切であることなど、教護職員の参加が是非とも必要である。
  したがって、生活指導の専門的理論と技術を備えた教護職員に授業法や特別活動(学級活動、クラブ活動、学校行事等)への参加を認め、教諭との複数担任制(教諭が担任で教護が副担任)等連携を強化する体制をとることが児童・生徒指導上最も適切な方法であると考える。
 
(6)学籍等について
  学籍は、原則として教護院在院中は教護院所在地の小学校・中学校に異動し、復学する場合や卒業する場合には、保護者の転居等特別な事情がない限り学籍を出身校に戻して取り扱うこととされたい。
  なお、その間、出身校との関連については内申書等の問題で児童・生徒に不利益をもたらさないためにも出身校との関係を引き続き保つ必要があるので、分校又は分教室と出身校とが連携しながら取り組める方策を講じられたい。
 
  学籍や卒業証書の発行又は内申書等については、児童・生徒に不利益をもたらさないために関係機関は最善の方法を講じること。
 
4.学校教育導入に関する要望事項の取扱いについて
  分校又は分教室を設置して学校教育の導入を進めるに当たっては、「分校又は分教室の特例措置に関する要望事項」の内容について、文部省の理解があってはじめて教育委員会との具体的な協議に入れるものと考える。   したがって、実行性のある取扱いをしていただくためには、文部省から都道府県及び教護院を設置している政令指定都市の教育委員会に対して、要望内容を踏まえた協議が行えるような通達文書を出す必要がある。   同時に、厚生省より各知事・政令指定市長に対しても同内容の通達を出し、福祉と教育の両行政の協議を実のあるものとする取扱いを是非ともしていただきたい。
                                               以上