今後の学習指導に対する考え方
 
全国教護院協議会

今後の学習指導に対する考え方
 
 
1 現行の学習指導体制
 
(1)準ずる教育方式
 児童福祉法(第48条第2項〜第4項)に基づき学校教育法の規定による小、中学校に準ずる教科を院内で、主として教護職員が指導する(派遣教員が加わる施設もある)。

(2)分校、分教室方式
 教護院の所在地の小、中学校の分校、分教室等を院内に設置する。
 
 
2 準ずる教育方式について
 
 準ずる教育は昭和23年の児童福祉法施行以来実施されている教護院特有の学習指導で、40年近い歴史を有し、実績を挙げている。現在、約9割の教護院でこの方式をとり入れている。
 
 教護院で準ずる教育が行われている背景は、児童の入院事由が非行に起因しており、その児童に学校というグループ社会で他の児童とともに教育を受けさせるときは、他の児童の教育に支障を与えるおそれがあること。また、入院児童を教護院から一般の学校に通わせると、付近の人々に迷惑をかけたり、逃亡したりすること。
 
 一方、教護院は児童の教護を主目的としており、教育もその目的達成のための一つの手段として考えられるべきである。このような理由から教護院で準ずる教育が行われている。
 
 しかしながら、準ずる教育は教護院が学校教育法に定める学校でないことから学校教育とは認められていない。また、文部省の行政実例は、教護院に入院する児童は、学校教育法第23条に定める就学義務の猶予または免除を行う場合に該当するものとしており、入院中の児童は学校教育を受ける機会を失う事になってしまう。
 
 入院中の児童に対しても、学校教育を保障すべきであるとの観点から、準ずる教育を学校教育として位置づけるための提案が、教護院内からたびたび行われ、長年にわたり検討が繰り返されてきたが、懸案のまま今日に至っている。
 
 
3分校、分教室方式について
 
 分校、分教室の設置は、昭和30年代の後半頃から社会情勢の変容、保護者等からの要請を背景に、一部の県で、入院中の児童に学校教育を受けさせようとする動きが現れてきた。
 昭和40年代にはいって、教護院の設置者の要請を受けて、市町村教育委員会は県教育委員会と協議し教護院内に小、中学校の分校等を設け児童に学校教育を受けさせる施設がでてきた。
教護院内に分校等を設置して学校教育を行うことについて、文部省は行政実例で現行法令上差し支えないとし、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」及び「義務教育費国庫負担法」が適用されるとしている。
 現在、約1割の教護院が分校、分教室等を設置している。
 
 
4教護院の望む今後の方向
 
 教護院の現行の法的位置づけから、教護院内で学校教育を実施するためには、分校、分教室等の設置が現状では比較的障害なく導入できる方法であろう。
 この場合、学校教育面に重点を置くだけでなく、教護事業の本質を見失うことがないよう、その運営に当たっては、教護院はもちろん、市町村教育委員会、本校としての小、中学校の理解を得なければならない。
 また、分校等に対する教員の配置については、普通学級の基準では処遇困難な児童の学習指導が十分に行えないので手厚い配慮が必要である。
 カリキュラムについても、入院児童の学力がかなり低いことから、一般の学校教育をそのまま実施するのでなく、児童の特性に見合ったカリキュラムの配慮が必要である。
 
 一方、準ずる教育は教護院の長い歴史の上に成立し、定着しており、約9割の教護院で実施いていることから根強い支持があることは無視できない。
 従って、現時点で、早急にすべての教護院に分教室等の設置等、他の方向へ転換策を打ち出すことの困難さを配慮する必要がある。
 そこで、児童福祉法第48条第3項に規定する文部大臣の教科に関する事項の勧告権(カリキュラムのほか職員の資格に関するものを含む広義のもの)を踏まえ、準ずる教育の指導内容等について、整備を図る。たとえば、
 ・学習指導員は教員免許所持者を充てる
 ・学習指導員に所要の研修を実施する
 ・教員資格は教護院に在籍中に限り有効とする
 ・学習指導に関して教育委員会の指導、助言を受ける
 ・必要に応じ教員の派遣を要請する
 等の措置を講じ、準ずる教育を学校教育と見なし、市町村教育委員会は教護院設置者に入院児童の教育の委託を行う。当面の対応策として、このような方法を採用することはできないであろうか。
 
 現時点で教護院の学習指導の今後の方向を単一化することは極めて難しいが、入院中の児童に学校教育を保障したいとする立場は全教護院に共通している。