学校教育運営上の様々な留意点

学校の設置
分校の定義
地方交付税
学級編制
教員配置
卒業証書
県立学校 
特別支援教育
小中学校の設置について
 児童自立支援施設は入所児童の特性から一般校に通学させることができず、施設内に学校・分校等を設置する必要がある。1984年に国の会計検査院から指摘のあったように学校教育が実施できる施設設備が必要である。小中学校の設置者は例外を除いて市町村と法令で定められているので、本来の経費は市町村持ちであるが、児童自立支援施設の場合は、施設の設置者である都道府県や政令指定都市が負担している場合が多い。この場合は国庫補助の手続きが問題となる。

学校教育法
 第38条 市町村は、その区域内にある学齢児童を就学させるに必要な小学校を設置しなければならない。
 第49条 ・・・・第三十七条から第四十四条までの規定は、中学校に準用する。

小学校設置基準・中学校設置基準
 学校教育法 (昭和二十二年法律第二十六号)第三条の規定に基づき出されている文部科学省令
 この設置基準は小学校・中学校を設置する場合の最低基準である
   (一学級の児童数)
   (学級の編制)
   (教諭の数等)
   (校舎及び運動場の面積等)
   (校舎に備えるべき施設) 教室(普通教室、特別教室等) 図書室、保健室 職員室
                    必要に応じて、特別支援学級のための教室 
   (その他の施設) 体育館
   (校具及び教具)
 公立小・中学校の普通教室の平均面積は64uとなっている。 国庫補助基準面積では74u(昭和48年以降)
とされているが、これは学校の補助基準面積を積算する際の一要素であり、 教室の大きさを一律に決めてい
るわけではなく、実態に合わせて各設置者が整備している。



分校と分教室の定義について
 分校は学校教育法では記載がないが、学校教育法施行令・同施行規則には記載がある。また、施設費国庫負担法・標準法・学校給食法施行令・普通交付税に関する省令に記載がある。また分校を設置する場合は市町村の「学校設置条例」を改正する必要があり、教育委員会が条例案を作成し市町村議会に諮ることになる。
 一方、分教室は法令には記載がなく、本校の一部と扱われる。ただし学級数や児童生徒数は本校に合算される事になり、教職員配置や交付税の算出対象となっている。分教室は児童自立支援施設独自の用語であり都道府県教育委員会と市町村教育委員会が覚書として確認していると思われる。したがって、分教室の場合は市町村条例の改正の必要はない。文書化されていない場合は、解釈が変更されてしまうおそれがあるので四者による教育推進協議会等で定期的に確認する必要がある。

学校教育法施行令
 第25条
  市町村の教育委員会は・・・都道府県教育委員会に届けなければならない
   四 分校を設置し、又は廃止しようとするとき。

学校教育法施行規則
 第42条
   小学校の分校の学級数は、特別の事情のある場合を除き、五学級以下とし、前条の学級数に算入
   しないものとする。
 第79条
   ・・・中学校に準用する。この場合において、第四十二条中「五学級」とあるのは「二学級」とする

義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律
 第13条
  この法律の適用については、本校及び分校は、それぞれ一の学校とみなす。
 
公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律
 第16条
   ・・・・(教職員の配置数)の適用については、本校及び分校は、それぞれ一の学校とみなす。
 3 ・・・(養護教諭等と事務職員)同一の設置者が設置する小学校と中学校・・・の敷地が同一である場合  
   ・・・には、当該小学校及び中学校は、一の学校とみなす。

普通交付税に関する省令    →地方交付税参照

津市立学校設置条例  (三重県の例)
 第2条 学校の名称及び位置は、次のとおりとする。
  (1) 小学校
        津市立栗真小学校国児分校       津市栗真町屋町524番地
  (2) 中学校
        津市立一身田中学校国児分校      津市栗真町屋町524番地  
 

地方交付税
 市町村に対する地方交付税はその算出(基準財政需要額の測定単位および単位費用)に当たっては、学校教育関係では、学校数・学級数・児童生徒数が測定単位となっている。学校数には分校数も含まれる。
 この算出によって求められた金額は減少されることなく市町村に交付されるが、いわゆるひも付きの交付金でないためその使途は市町村の自由裁量となっている。つまり、市町村が算出額に見合う教育予算を確保するかどうかは教育委員会および市町村議員の理解度にかかっている。
 児童自立支援施設の分校数・学級数・児童生徒数も算出額に含まれているので、教育費(主として教材費)を分配してもらうことができる。しかしながら、算出額の全額が分配してもらえるのではなく、市町村内の他の小中学校の分配額と同等の比率での分配額とするべきである。
 注)教職員の給与は都道府県からの支給であり教職員数は都道府県の測定単位となっている。
   市費講師の給与は交付金の中から市町村で予算化されている。

地方交付税関係
 普通交付税に関する省令
 第二章 基準財政需要額の算定方法 (測定単位の数値の算定方法)
  第5条 
   十四 小学校の児童数
     ・・・(分校として当該都道府県の教育委員会に届出のあつたものは独立の学校とみなす。)に在学
      の児童の数
   十八 中学校の生徒数  小学校と同様

   注)教職員数の算定の場合(標準法)は同一敷地内の小中学校は1校とみなすとの規定(上記)がある
     が、普通交付税については規定がないので2校扱いとなるが、具体的には不明なので1校扱いとし
     た。 

地方交付税法における測定単位および単位費用(2024年度)
  測定単位の数は、5月1日現在の学校基本調査の数による
   小学校 児童数  1人につき      51,300円
         学級数  1学級につき   818,000円
         学校数  1校につき  12,708,000円  (分校も同額)
   中学校 生徒数  1人につき      47,400円
         学級数  1学級につき  1,025,000円
         学校数  1校につき  11,029,000円  (分校も同額)
   具体的算出例へ
 



学級編制
 学級数は5月1日現在の学校基本調査の児童生徒数を元に、まず「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(以下標準法という)施行令」で学級数を算出することになっている。
これを「標準学級数」と言い教員配置数の基礎となるものである。運営上便宜的に定める学級数とは異なる。
児童自立支援施設においては、児童生徒数が最も少ない時期に標準学級数が確定することになる。
 学級数の算出に当たっては、児童自立支援施設の場合は児童生徒数が少ないので、小規模校における学級編制に習熟する必要がある。かつてはへき地校における学級編制で習熟された方もいたが、現在は学校統廃合によりどの都道府県も少人数校がほとんどなくなり、正確に算出できる方が少なくなった。どちらかと言えば児童自立支援施設が小規模校の代表格となったため、特に分校・分教室の管理職は理解を深める必要がある。
 学級数が確定すれば学級編制の結果を市町村教育委員会を通じて都道府県教育委員会に届けなければならない。さらに標準法第5条では「変更したときも、同様とする」と定められているが、この届けを行っている分校・分教室は少ないのではなかろうか。以前淡海学園において2学期に中学校1・2年生の転入出が頻繁にあった時、1・2年生が複式学級になったりならなかったりで標準学級数が目まぐるしく変わったことがあり、その都度市教委を通じて県教委に報告した。すると秋の人事主事訪問で「こんなに学級数が変動すれば先生方も大変ですね」「人事上の特別な配慮が必要なことが分かりました」との反応をいただいた。それ以降小中学校の教員数が変動することなく確定するようになった。逐一報告することは煩雑であるが、綿密に行うことで確かな理解を得ることにつながる。


標準法施行令
 第1条  1学級(複式学級)とする場合   複式学級になると標準学級数は1とみなす
   小学校(義務教育学校の前期課程を含む。以下この条において同じ。)の第一学年の児童の数と当該学年に引き続く一の学年の児童の数との合計数が八人以下である場合(当該引き続く一の学年が小学校の第二学年以外の学年である場合で、小学校の第一学年又は当該引き続く一の学年のいずれかの児童の数が四人を超えるときを除く。)
小学校の引き続く二の学年(第一学年を含むものを除く。)の児童の数の合計数が十六人以下である場合(当該引き続く二の学年が一の学年と当該学年より一学年上の学年及び一学年下の学年以外の学年とである場合で、当該引き続く二の学年のいずれかの児童の数が八人を超えるときを除く。)
中学校(義務教育学校の後期課程及び中等教育学校の前期課程を含む。以下この条において同じ。)の引き続く二の学年の生徒の数の合計数が八人以下である場合(当該引き続く二の学年が中学校の第一学年と第三学年とである場合で、これらの学年のいずれかの生徒の数が四人を超えるときを除く。)
小学校又は中学校の特別支援学級に編制する二以上の学年の児童又は生徒の数の合計数が八人以下である場合
  学級数の算定の具体例

標準法
 第5条
    市町村の教育委員会は、毎学年、当該市町村の設置する義務教育諸学校に係る前条第一項の学級
   編制を行つたときは、遅滞なく、都道府県の教育委員会に届け出なければならない。
    届け出た学級編制を変更したときも、同様とする。




教員配置

 学級数が確定すると、標準法第7条に従って教頭および教諭数が算出される。
 さらに、
 第7条第1項第8号では小学校・中学校の分校は1名増員(分校管理者として)されるとある。
 第7条3項によれば、標準3学級であっても教頭は半数しか配置されない。標準2学級であれば未配置と
  なる。(分校は上記1名で充当)
 第8条では養護教諭等の数が算出される。
 第9条では事務職員の数が算出される。
 第16条第1項では第7条〜第9条の規定は本校及び分校はそれぞれ一の学校とみなすとある(独立人事)
 第16条第3項では養護教諭・事務職員は小中学校が同一敷地内になる場合は一の学校扱いとなる
 第15条第2号で定められている「特別の指導」は、児童自立支援施設の児童生徒に該当すると思われる
  が教職員の配置数に反映されている例は少ない。市町村教育委員会や都道府県教育委員会に要望を継続
  することが必要である。
  このように分校は独立人事であり1名加配される。学級数によっては養護教諭が派遣されることもある。
 しかしながら、あくまで5月1日の学校基本調査が基準であるので、むやみに教員配置を要望すると逆に
 減員される場合もあり得るので注意が必要である。教員配置については、施設・市町村教委・都道府県関
 係部局・都道府県教育委員会の4者による推進協議会を定期的に開催して実情に沿った人事配置が行われ
 ることが望ましい。


標準法
 第7条 副校長、教頭、主幹教諭(養護又は栄養の指導及び管理をつかさどる主幹教諭を除く。)、指導教
    諭、教諭、助教諭及び講師(以下「教頭及び教諭等」という。)の数は、次に定めるところにより算定
    した数を合計した数とする。
    一  次の表の上欄に掲げる学校の種類ごとに同表の中欄に掲げる学校規模ごとの学校の学級総数
     に当該学校規模に応ずる同表の下欄に掲げる数を乗じて得た数(一未満の端数を生じたときは、
     一に切り上げる。以下同じ。)の合計数
   八 小学校の分校の数、中学校(中等教育学校の前期課程を含む。)の分校の数及び義務教育学校の
    分校の数の合計数に一を乗じて得た数

    教頭及び教諭数の具体例 (学級数は標準学級数)
      
  (教頭数)
 3 前二項に定めるところにより算定した数(以下この項において「小中学校等教頭教諭等標準定数」とい
  う。)のうち、副校長及び教頭の数は・・・・三学級から五学級までの中学校の数に二分の一を乗じて得た
  数の合計数とし、主幹教諭、指導教諭、教諭、助教諭及び講師の数は小中学校等教頭教諭等標準定数
  から小中学校等教頭等標準定数を減じて得た数とする。

第8条  養護をつかさどる主幹教諭、養護教諭及び養護助教諭(以下「養護教諭等」という。)の数は、次に定めるところにより算定した数を合計した数とする。  
  三学級以上の小学校(義務教育学校の前期課程を含む。)及び中学校(義務教育学校の後期
課程を含む。)並びに中等教育学校の前期課程の数の合計数に一を乗じて得た数

第9条  事務職員の数は、次に定めるところにより算定した数を合計した数とする。
  四学級以上の小学校(義務教育学校の前期課程を含む。)及び中学校(義務教育学校の後期
課程を含む。)並びに中等教育学校の前期課程の数の合計数に一を乗じて得た数
  三学級の小学校(義務教育学校の前期課程を含む。)及び中学校(義務教育学校の後期課程
を含む。)並びに中等教育学校の前期課程の数の合計数に四分の三を乗じて得た数
    ※ この四分の三というのは全県で対象校が4校あれば3校に配置、1校は未配置という意味である
児童自立支援施設内の分校では中学校が3学級以下であるので事務職員の配置は難しい

第15条  第七条から第九条まで及び第十一条から前条までの規定により教頭及び教諭等、養護教諭等、
栄養教諭等、寄宿舎指導員並びに事務職員の数を算定する場合において、次に掲げる事情があ
るときは、これらの規定により算定した数に、それぞれ政令で定める数を加えるものとする。
この場合において、当該政令で定める数については、公立の義務教育諸学校の校長及び当該学
校を設置する地方公共団体の教育委員会の意向を踏まえ、当該事情に対応するため必要かつ十
分なものとなるよう努めなければならない。
 
  小学校、中学校若しくは・・・・において教育上特別の配慮を必要とする児童又は生徒(障害のある児童又は生徒を除く。)に対する特別の指であつて政令で定めるものが行われていること。

(分校等についての適用)
第16条 第七条から第九条まで及び第十一条から前条までの規定(第七条第一項第八号、第八条第一号及び第二号、第八条の二第一号及び第二号、第九条第一号及び第二号並びに第十一条第一項第七号の規定を除く。)の適用については、本校及び分校は、それぞれ一の学校とみなす。
  第八条第一号又は第九条第一号の規定の適用については、同一の設置者が設置する小学校と中学校(中等教育学校の前期課程を含む。以下この項において同じ。)でこれらの規定の適用の区分に従いそれぞれ政令で定める規模のものの敷地が同一である場合又は政令で定める距離の範囲内に存する場合には、当該小学校及び中学校は、一の学校とみなす。

標準法施行令
(教職員定数の算定に関する特例)

第7条 法第十五条第二号の政令で定める特別の指導は、次の各号に掲げる指導とし、同条の規定により教職員の数を加える場合においては、それぞれ当該各号に掲げる数を当該各号に定める法の規定により算定した数に加えるものとする。
  小学校、中学校若しくは義務教育学校又は中等教育学校の前期課程において、学習指導上、生徒指導上又は進路指導上特別の配慮が必要と認められる事情を有する児童又は生徒に対して当該事情に応じた特別の指導が行われる場合にあつては、当該指導が行われる学校の数等を考慮して文部科学大臣が定める数 法第七条

卒業証書の取り扱い
 1951年制定の児童福祉法では、教護院の学習指導は学習指導要領に「準ずる教育」であるので、卒業証書は交付できず、施設長の「修了証明書」を発行するとされた。
 しかし、施設長の修了証明書は児童が進学・就職する際に不利益をもたらすことがあることが分かり
教護院への公教育導入の取り組みとともに、児童の出身校から卒業証書を発行してもらう取り組みが行われた。
 ところが、出身校にその趣旨を理解してもらい卒業証書を発行してもらうことは、教育課程の履修状況の違いや児童の住所と学籍の問題と複雑に絡み合って困難な作業でもあった。一旦理解を得て卒業証書を発行してもらえても、管理職が変わると再び説明と理解が必要となる場合があった。
 そこで、施設では定期的に出身校との連絡会を開催し、元担任・学年主任・管理職らを招待して児童の様子を見てもらうと共に高校進学や卒業証書の取り扱いについて説明し理解を得る機会を持った。
 平成10年の児童福祉法改正で「教護院」が「児童自立支援施設」に改称されると共に施設長に就学義務が課せられ分校・分教室が導入されるとともに卒業証書の問題も比較的円滑に発行された。
 こうした取り組みの結果、施設において行われる卒業式では、出身校の校長が施設を訪れ児童一人一人に卒業証書を手渡しすることが通例となった。
 しかしながら、卒業前に学籍を移動するに当たって出身市町村教育委員会から「住民票の移動を伴わない学籍移動は認められない」との指摘があったり、連絡会に参加していない管理職から「卒業証書を発行するのはおかしい」との指摘があるなど、年月を経過しても課題は完全には克服できていない。
 そこで、都道府県教育委員会の理解を得て、都道府県内の全市町村教育委員会の担当者会議において児童自立支援施設の特殊事情を説明し、学籍移動及び卒業証書発行への理解を促すような取り組みがなされた都道府県もあった。
 このように学籍と卒業証書の問題は、地方交付税における基準数や児童が将来に受けるかも知れない不利益とも関係するため、特別な場合として法律上で位置づけない限り完全な解決は難しい。

児童福祉法(1951年)
第48条

 養護施設、精神薄弱児施設、盲ろうあ児施設、虚弱児施設及びし体不自由児施設の長は、学校教育法に規定する保護者に準じて、その施設に入所中の児童を就学させなければならない。
 教護院の長は、在院中学校教育法の規定による小学校又は中学校に準ずる教科を修めた児童に対し、修了の事実を証する証明書を発行することができる。 
 教護院の長は、前項の教科に関する事項については、文部大臣の勧告に従わなければならない。
 第二項の証明書は、学校教育法により設置された各学校と対応する教育課程について、各学校の長が授与する卒業証書その他の証書と同一の効力を有する。但し、教護院の長が第三項の規定による文部大臣の勧告に従わないため、当該教護院における教科に関する事項が著しく不適当である場合において、文部大臣が厚生大臣と協議して当該教護院を指定したときは、当該教護院については、この限りでない。

児童福祉法(1998年)
第48条

児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設及び児童自立支援施設の長、その住居において養育を行う第六条の三第八項に規定する内閣府令で定める者並びに里親は、学校教育法に規定する保護者に準じて、その施設に入所中又は受託中の児童を就学させなければならない。(施行期日)

附 則 (平成九年六月一一日法律第七四号) 抄
第7条

当分の間、児童自立支援施設の長は、入所中学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)の規定による小学校又は中学校に準ずる教科を修めた児童に対し、修了の事実を証する証明書を発行することができる。この場合において、児童自立支援施設の長は、当該教科に関する事項については、文部科学大臣の勧告に従わなければならない。
 2 前項の証明書の効力については、旧法第四十八条第四項の規定の例による。
 


都道府県立学校化への考察
 児童自立支援施設は都道府県および政令指定都市に必置の施設であり、入所児童もその地域全域が対象となるため、それに併設する公立学校も都道府県および政令指定都市が設置するのが妥当と思われる。しかしながら、現実には併設の公立学校はすべて市町村立となっている。これは現在の法体系が関係している。
 かつて特別支援学校(当時は養護学校)も市町村立学校の施設内学級として公教育が導入されていたが、昭和54年からは養護学校教育の義務制が実施された。実は昭和22年に養護学校は義務化されているが実施は見送りとなっていた。知的障害児、肢体不自由児、病弱児等の教育の場がほとんど整備されなかったため、1955(昭和30)年ころから養護学校を設置してほしいという保護者等による運動が展開された。その結果1956(昭和31)年に、公立養護学校整備特別措置法が定められたことによって、ようやく養護学校整備が開始されたが、その進捗状況は緩慢であった。こうした状況から、1971(昭和46)年、中央教育審議会が、養護学校教育義務制の早期実施を答申したことにより、文部省は、昭和47年度からの7か年計画を策定し、53年度末までに養護学校対象児童生徒すべてを就学させるために必要な学校を整備することにした。また、昭和48年11月には、養護学校教育の義務制開始を1979(昭和54)年4月1日とする政令が公布された。
 このように法律上は義務化されていても、財政面や整備面での進展がなければ、絵にかいた餅のように実際の学校教育が導入されてとは言えない。平成10年の児童福祉法改正で児童自立支援施設の学校教育が義務化されたとは言うものの、学校教育法での規定はなく、ましてや財政面や制度面での具体的な進展はない。従って、旧制度の中で市町村立の小中学校に押し込めるように学校教育を導入するしかないのである。
 では近年整備された中高一貫教育校や義務教育学校として設置することはできないであろうか。残念ながら義務教育学校は下記のように現在都道府県立のものは存在しない。一方中高一貫校の中には都道府県立のものがある。しかしながら、中高一貫校は修業年限が6年間で特色ある教育を実現するという趣旨のために設置されているので、児童自立支援施設の併設校として途中転出入が多く普通の義務教育を実施する場合には趣旨にそぐわない。
 義務教育学校 令和6年度 国立 5校 市立 157校 町立 45校 村立 30校 私立 1校
 中高一貫教育校 令和6年度 併設型 国立 1校 都道府県立 91校 市立 14校 私立 432校
               連携型 国立 1校 市町村立 157校 私立 4校
 
では他の都道府県立学校の分校として設置することはできないであろうか。
 都道府県立学校としては高等学校・養護学校が考えられる。高等学校は中学校卒業後の児童が対象であるため、たとえ分校であっても小中学校の児童生徒を入学させることはできない。養護学校も知的障害児、肢体不自由児、病弱児等が対象であるため普通学級対象児である児童自立支援施設の児童を入所させることはできない。さらに一般小中学校で生徒指導上課題を抱えた施設入所児童生徒を県立学校の教職員が指導するのもかなり困難を伴うことが予想される。
 しかしながら、かつて教護院時代に学校教育を導入した際に、情緒障害児学級(特別支援学級)とされたように、特別支援学校の分校として情緒障害及び発達障害対象校にはできないであろうか?教員も県立学校教員でなく市町村の小中学校教員を充当してはどうであろうか。その場合は法律上の特別措置(付則)として、
 ・特別支援学校で都道府県が認める場合は分校を設置して発達障害の児童生徒を入学させることができる 
 ・この発達障害の生徒は一般高等学校への進学も可能である
 ・この分校に勤務する教職員は小中学校教員とするが、地方交付税の県立学校教員として参入する。
 特別支援学校の管理職の理解を得るのは難しいと思われるが、かつての養護学校設立の際の混乱よりははるかに少ない混乱である。
 最後に児童自立支援施設に入所する児童生徒の保護者は、大部分が虐待・育児放棄・生活困窮者であり、特別支援学校の児童生徒の保護者のように政治活動・要望活動に対して無関心な保護者ばかりである。したがって、児童の教育権を保障する活動は、保護者や議員ではなく、ひとえに施設長・都道府県福祉部局・都道府県教育委員会が連携して行うべきものである。地元小中学校長・市町村教育委員会は教員人事の補佐のみをするべきである。
学校教育法    
第49条の2 義務教育学校は、心身の発達に応じて、義務教育として行われる普通教育を基礎的なものから一貫して施すことを目的とする。

第49条の3

義務教育学校における教育は、前条に規定する目的を実現するため、第二十一条各号に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
第49条の4 義務教育学校の修業年限は、九年とする。
第63条 中等教育学校は、小学校における教育の基礎の上に、心身の発達及び進路に応じて、義務教育として行われる普通教育並びに高度な普通教育及び専門教育を一貫して施すことを目的とする。
第64条 中等教育学校における教育は、前条に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
豊かな人間性、創造性及び健やかな身体を養い、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと。
社会において果たさなければならない使命の自覚に基づき、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な知識、技術及び技能を習得させること。
個性の確立に努めるとともに、社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、社会の発展に寄与する態度を養うこと。
第65条 中等教育学校の修業年限は、六年とする。
第72条

特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。

第75条

第七十二条に規定する視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者の障害の程度は、政令で定める。




特別支援教育
 児童自立支援施設には出身校で普通学級に在籍していた児童生徒だけでなく、特別支援学級に在籍していた児童生徒や通級学級に通級していた児童生徒なども入所してきます。しかしながら多くの児童自立支援施設内の学校・分校・分教室は普通学級しか置かれていませんので、出身校での特別支援教育が入所と同時に中断することとなります。また、再び出身校に戻る際にも同じ特別支援教育を受けられるという保証はありません。
 そこで、特別支援教育の継続が可能になるよう、出身校の市町村教育委員会の就学支援委員会(就学指導委員会)と施設のある市町村の就学支援委員会とが連携することが重要になってきます。これには児童を措置する児童相談所や家庭裁判所の理解も必要です。施設内の学校等に特別支援学級がなくてもその児童が特別支援教育対象者であり、将来特別支援教育を受ける可能性があることを認識してもらう必要があります。ただし、就学支援委員会に提示する個人情報は児童に不利益がないよう名前等を慎重に配慮する必要があります。
 実際、児童が保護者の強い要望により家庭復帰して出身校に戻った際に、かつて在籍していた特別支援学級が無くなっていたり通級学級に通えなくなった事例もあります。また、中学校卒業後に特別支援学校に入学を希望しても、普通学級からの入級はお断りとされた例もあります。これらの際は、施設のある市町村での就学支援委員会の観察を含めた諮問が参考にされることとなります。

 近年の報告によると、児童自立支援施設に入所する児童の中に知的障害や発達障害を持った者の割合が大変高いと言われています。特に児童虐待やネグレクトのケースでは、発達障害に対する保護者の理解不足が原因となることも指摘されています。したがって、本来は施設内の学校等に特別支援教育が行える環境を整えておく必要がありますが、現行法の範疇では大変難しく、都道府県や政令指定都市内の福祉部局と教育委員会が密接に連携することでしか実現しません。
 全国の施設の中にはその学校等にすでに特別支援学級を設置している所もあると聞いていますし、また特別支援教育ができない施設には特別支援学級在籍の児童は入所させないという事例もあったと聞いています。どのような方針が望ましいかは全国的に統一した見解が必要だと思われます。

リンク 特別支援教育について