財政編解説3  (地方交付税)
 
 教育費が一般財源化され、どのように市町村等に交付されているか。私は財政の専門家ではないが、関係者から聞く所によるとおよそ次のようになる。
 地方交付税法では、交付金を算出するに当たって、各分野ごとの単位費用が定められている。これは地方交付税法第1条にあるように「交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障する」ためのものである。言い換えれば、その事業を行うために必要な経費の見積もりの基準がある。地方交付税法第12条の単位費用(毎年更新)の中で平成19年度の教育費を例にあげると次のようになる。

都道府県教育費
 1 小学校費 教職員数一人につき
6,493,000円
 2 中学校費 教職員数一人につき
6,513,000円
市町村教育費
 1 小学校費 児童数一人につき
 40,800円
          学級数一学級につき
 853,000円
          学校数一校につき
 8,385,000円
 2 中学校費 生徒数一人につき
 37,000円
          学級数一学級につき
 1,068,000円
          学校数一校につき
9,042,000円
                    
 交付税額を決定する際には、この金額に5月1日の学校基本調査の結果数を掛け合わせ、さらに自治体の特性による補正係数等で調整し、全項目の合計を「基準財政需要額」として算出する。
 1例として仮に次のような分校を例にあげておおまかな算出を試みることにする。ただし、補正係数はないものとして算出している。
 小学生 5人 1学級   中学生 20人  3学級   小中共に分校
 小学校費 経常経費  40,800×5+853,000+8,385,000=      9,442,000円
        投資的経費                               853,000
 中学校費 経常経費  37,000×20+1,068,000×3+9,042,000=12,986,000
        投資的経費 1,068,000×3=                  3,204,000
  合計                                       26,485,000
  注)実際の算出結果は各都道府県で市町村別に公開されている。
 同規模の分教室では、学校数の加算がないため合計で約900万円である。
 
 結論から言うと、施設内に分校が設置されたことにより、その市町村には上の金額の交付税が増額されることとなる。(もちろん都道府県内の配分率によって減額はされるが・・・)しかし、その金額がそのまま予算化されるわけではなく、一般校でも各学校別の算出額の10〜20%程度しか予算配分がないといわれるので、分校や分教室では5〜10%程度ではないかと思われる。上の試算の場合は5%で、130万円程度となる。
 
 予算配分の計算において、誤解を招きやすい2点を紹介する。 
 まず一つ目は「基準財政収入額」との関係である。各自治体では独自の税収等があり、地方交付税法に基づいて「基準財政収入額」を算出している。「基準財政収入額」が「基準財政需要額」を上回る自治体には、交付税を交付する必要がなく、「不交付団体」と称している。大部分の自治体は、下の図のように「基準財政収入額」が「基準財政需要額」を下回わり、その不足分を国が交付税として交付する事になっている。だたし、この計算はあくまで交付金を算定するためのものであって、実際の歳入や歳出関係を示したものではないことに留意していただきたい。
 <交付団体 K市の場合 平成18年度>
 
基準財政需要額 173億円
 
基準財政収入額  122億円 地方交付税交付金
51億円
 
 仮に分校が一つ増えた場合は、分校分の算定額は基準財政需要額に上乗せされる。「基準財政収入額」は学校数などに影響されないため、上乗せされた全額は交付金として全額反映され、市町村の収入増となる。よく「交付金が少ないから教育費を十分に出せない」
という説明を耳にするが、これは全く筋の通らない論理である。
 
 二つめは不交付団体の場合である。不交付団体では独自の税収が多く、交付金が交付されない。従って分校等の設置により基準財政需要額が上乗せされても、実際には市町村の収入増とはならず、その市町村の財源から支出することとなる。そこで、国からの交付がないから施設内の分校には予算化できないという説明は筋が通ることになる。
 <不交付団体 R市の場合 平成18年度>
 
基準財政需要額 92億円
 
基準財政収入額 102億円
交付金なし
 
 義務教育は国が行うから全額国が負担するように思われがちだが、実際にはこれまでは国・都道府県・市町村が概ね3:4:3の割合で負担してきている。そのうち都道府県や市町村で財政面で苦しい所は交付金で補ってきている。つまり、義務教育は、国と地方公共団体の財政的な協力関係で行われている。それを明らかにしたのが、前述の昭和60年5月の文部省通達であり、都道府県や市町村に従来の教材費(基準財政需要額の単位費用)の確保の指示をしているのである。3:4:3の負担関係を地方公共団体が守らなければ、義務教育の水準維持は達成されないのである。ただし、最近の税制改革により、この負担関係も変化していると思われるが、現在の所は資料がなく把握できていない。
 
 ともかく、施設内の分校分教室では、市町村から教育費を支出してもらうためのハードルは高い。しかし、義務教育の水準維持のための国のシステムの中では、その財源や根拠は明確にされており、確保されなければならないものなのである。