法令編解説2 (教育課程)

児童自立支援施設内の学校教育には、一般校とは異なる次のような特徴がある。
 

 児童は生活指導等により自立支援を行うことが目的の施設であり、この目的のための活動が優先されなければならない。
 

 

 入所児童の多くは、出身校で不登校や授業エスケープなど教室に入れなかった児童、また、たとえ教室に入れても落ち着きがなく授業に参加できなかったり、理解できないまま時間を過ごしていた者が多い。
 

 

 入所児童の大部分は生来持っている能力に比べ、学力の獲得や定着が著しく劣るという特徴を持っている。従って、学年を遡っての学力の回復が大きな課題となっている。
 

 近年の入所児童の多くは、家庭内で虐待を受けたり、発達障害を伴う者が全体の6割近くに達している。(滋賀県の場合)
 以上のような特徴がある中で、普通学級という理由で一般校と同様の教育課程を実施すると、施設本来の目的を損なうこととなってしまう。あくまで、施設あって学校教育という特殊性があることを押さえておく必要がある。
(1)授業時数
 例えば、授業時間数について言えば、学力低下が懸念されて一般校では授業時間数確保が叫ばれ、教育委員会から厳しい指導がなされているが、はたして施設内の学校教育にも同じように厳しくして良いものであろうか。先にも述べたように、施設における学校教育は施設全体の教育と密接に関連したものであり、あくまで自立支援というより高い目標を補うという使命を持っている。学園全体の自立支援プログラムは、その学園の立地条件や自然環境や指導の歴史によって異なる。学校教育の方が変わったからといって、学園のプログラムをいきなり変えることはできないのが実情であろう。学校教育の変更に当たっては、一般校より慎重に施設教育との整合性を保ちながら行わなければならない。
 時数確保についても、学校教育法施行規則第51条(旧第24条の2)・第73条(旧第54条)関係別表第一・第二の年間授業時数の確保をめざすのは当然であるが、施設全体の自立支援のプログラムとに照らして最も有効な範囲で行う必要がある。
(2)教育課程の計画と実施
 次に教育課程の編成についてであるが、これについても一般校とは多少異なる事情がある。学校教育法施行規則第54条(旧第26条)では、「児童が心身の状況によつて履修することが困難な各教科は、その児童の心身の状況に適合するように課さなければならない。」とあり、この心身の状況というのは一般には病気や障害によるものと解されている。しかし、児童自立支援施設に入所する児童の多くは、普通学級で学習することができないという広義の意味での心身の状況を抱えているのである。また、これまで授業を受けていないための基礎学力の欠如という共通した特徴は、教科年間指導計画通りに進めることができないという課題につながる。学年を越えて復習したり、内容を精選して学習させたり、学習意欲を持続させるための教材開発など、弾力的な教育課程が必要である。
 さらに、年度途中に入所する児童が多いことから、年度当初の計画通り進めることは難しく、再び以前の学習内容を復習しながら進めなければならないことも多い。このように教育課程は固定的ではなく、実態に応じて臨機応変となるのが大きな特徴である。
(3)特別支援教育
 平成19年度より特別支援教育が実施されたが、これは学校教育法施行規則第140条(旧第73条の21)によるものである。その条文の概要は「次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒・・・のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、・・・特別の教育課程によることができる。
 一 言語障害者  二 自閉症者  三 情緒障害者  四 弱視者 
 五 難聴者  六 学習障害者  七 注意欠陥多動性障害者
 八 その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの」
 というものである。この条文により、普通学級に在籍する児童生徒であっても特別支援学級への通級が認められることになった。
 しかしながら、施設内の分校や分教室で特別支援学級が設置されている例は少なく、通級という措置が事実上できないのが現状である。児童生徒の6割が特別支援教育対象であるという現状から考えると、特別支援学級の定常的な設置やそれを推進するための人的配置が不可欠であるが、法整備や文部科学省通達なしには難しい。